「自分で作ったこのお茶碗、いつか誰かに使ってもらえたら…」
陶芸にハマると、誰もが一度はそんな夢を描くのではないでしょうか。でも、その直後にこう思うはずです。「いやいや、私の作品なんてまだまだ下手だし、お金をもらうレベルじゃないよな…」って。
わかります。めちゃくちゃわかります、その気持ち!私もそうでした。自分が作った器を前にして、「これを売るなんて、おこがましいにも程がある!」と本気で思っていましたから。
でも、もしあなたが今、自分の作品を前にして同じように自信をなくしているなら、この記事を読んでみてください。結論から言うと、陶芸で販売できるようになるレベルに「絶対的な基準」なんて存在しません。 大切なのは、神様みたいな完璧な技術力ではなく、「あなたの作品を好きになってくれる人をどうやって見つけるか」そして「最低限のクオリティをクリアしているか」という、たった2つのことなんです。
この記事では、元々ただの陶芸好きだった私が、試行錯誤の末に自分の作品を販売できるようになった経験を元に、「販売できるレベル」の正体と、そこへ到達するための具体的なロードマップを、包み隠さずお話しします。技術的な話はもちろん、意外と見落としがちな「売るためのスキル」まで、全部です。読み終わる頃には、漠然としていた「販売への道」が、くっきりと目の前に見えてくるはず。さあ、あなたの作品が誰かの食卓に並ぶ、その第一歩を一緒に踏み出しましょう!
まず、あなたを縛り付けているであろう「完璧な作品じゃないと売ってはいけない」という呪いから解き放ちたいと思います。プロの陶芸家が作るような、寸分の狂いもない、息をのむほど美しい作品。もちろんそれは素晴らしいものです。でも、誰もがそこを目指さなければならないわけじゃないんです。本当に。
考えてみてください。世の中には、少し歪んでいたり、釉薬のムラがあったりする器が「味がある」「個性的で可愛い」と評価されて、たくさんの人に愛されていますよね。一方で、技術的には完璧でも、なぜか心に響かない作品だってあります。これって、一体どういうことなんでしょうか?
答えはシンプルで、作品の価値を決めるのは、作り手の技術力だけではない、ということです。あなたの作品に込められた想い、デザインのユニークさ、色使いのセンス…そういったものに共感し、「これが欲しい!」と思ってくれる人が一人でもいれば、その作品は「売れるレベル」にあると言えるんです。極端な話、どんなに技術が未熟でも、「この歪んだ形がたまらなく愛おしい!」という人が現れれば、それは立派な商品になります。
つまり、私たちが目指すべきなのは、100人中100人が満点をくれる完璧な作品を作ることではありません。そうではなくて、100人中1人でもいいから、「あなたの作品が大好きだ!」と熱狂的に支持してくれる「ファン」を見つけること。 これが、「売れるレベル」の本当の正体なんです。ちょっと気が楽になりませんか?完璧じゃなくていい。あなたらしさを好きになってくれる人を探せばいいんです。
「じゃあ、どんな作品でも売っていいの?」と言われると、さすがに「待った!」をかけなければなりません。ファンを見つけることが大事だと言いましたが、それはお客さんをガッカリさせたり、危険な目に合わせたりして良いということでは決してないからです。作り手として、最低限守らなければならない「クオリティライン」というものが、確かに存在します。
具体的に言うと、食器として販売するのであれば、
ちゃんと安定して置けるか(ガタガタしないか)
食べ物や飲み物を入れた時に、漏れたりしないか
縁(ふち)が欠けていたり、鋭利で口を切る危険がないか
高台(器の底)の処理が甘くて、テーブルを傷つけないか
といった、実用面での安全性や機能性は絶対にクリアしなければなりません。これは技術というより、作り手としての「誠意」や「思いやり」の問題です。いくらデザインが素敵でも、水漏れするカップや、置くとグラグラするお皿では、お金をいただくわけにはいきませんよね。
この「最低限のクオリティライン」さえ守れていれば、あとはあなたの個性や世界観で勝負して大丈夫。完璧な円や左右対称を目指すよりも、まずは「安心して使える器」を作ることを第一目標にしましょう。そこがスタートラインです。
「最低限のクオリティはわかったけど、具体的に何を練習すればいいの?」という声が聞こえてきそうですね。わかります。ここからは、その「安心して使える器」を作るために、私が特に重要だと感じている技術的なステップを具体的にお話ししていきます。これは販売への、いわば登山ルートのようなものです。一つずつクリアしていきましょう。
陶芸を始めたばかりの頃って、早くろくろを回して形を作りたくなりますよね。私もそうでした。「土を練る作業なんて地味だし、面倒くさい…」なんて思っていました。でも、断言します。この「土殺し」と「菊練り」こそが、すべての基本であり、作品のクオリティを左右する最も重要な工程です。
なぜか?土の中には、目に見えない空気の粒(気泡)がたくさん含まれています。この気泡が残ったままだと、ろくろで成形している時に形が崩れたり、最悪の場合、窯で焼いている時に「ボンッ!」と爆発して木っ端微塵になってしまうんです。想像しただけで恐ろしいですよね…。隣の人の大切な作品まで巻き込んで破壊してしまったら、もう目も当てられません。
「土殺し」で土の硬さを均一にし、「菊練り」で土の粒子を整えながら空気を抜いていく。この作業を丁寧に行うことで、初めてコシのある、扱いやすい粘土になります。最初は腕がパンパンになるし、綺麗な菊の花びらのような模様も全然できなくて、ただの泥団子をこねくり回しているだけのように感じるかもしれません。でも、騙されたと思って続けてみてください。安定して綺麗な形の器が作れる人は、例外なく、この土練りがめちゃくちゃ上手いです。まずは「無心で土を練る」時間を作ること。それが販売への確実な一歩になります。
「よーし、今日はマグカップを作るぞ!」と意気込んで、ろくろに向かう。一つ目はなんだかイマイチ。二つ目はちょっといい感じ。三つ目で「これだ!」という奇跡の一つが生まれる。…これ、初心者あるあるですよね。私も「今日の私、天才かも?」なんて思ったものです。
でも、販売を考えるなら、「奇跡の一点」を生み出す力だけでは不十分なんです。本当に必要なのは、「狙って同じような形を、ある程度のクオリティで複数作れる力」です。なぜなら、お客さんは「この前見た、あのマグカップが欲しい」と思ってくれるかもしれないし、ペアで揃えたいと思うかもしれないからです。その時に、「すみません、あれは偶然できたやつで、もう作れません」では、商売になりませんよね。
別に、工業製品のように寸分違わず同じである必要はありません。手作りなんですから、少しずつ表情が違うのが当たり前で、それが魅力でもあります。でも、「大体同じくらいの大きさで、同じような雰囲気のマグカップ」を、頼まれれば3つくらいは作れる。この「再現性」が、作り手としての信頼に繋がります。
この練習は、自分の技術の未熟さをこれでもかと突きつけられるので、結構つらいです(笑)。「なんでさっきはできたのに!」と叫びたくなることもしばしば。でも、これを乗り越えると、自分の引き出しが格段に増え、ろくろの上で土をコントロールする感覚が飛躍的に向上します。まずは「同じ湯呑みを3つ」から挑戦してみてください。これができれば、あなたはもう初心者ではありません。
ろくろで成形しただけの器は、言ってみれば「すっぴん」の状態です。ぼてっとしていて重く、底の部分も綺麗ではありません。このすっぴん状態の器に「化粧」を施し、一気に洗練された作品へと昇華させる工程が「削り」です。
半乾きの状態になった器をろくろに逆さまに乗せて、「カンナ」と呼ばれる道具で余分な土を削り取っていきます。この作業で、器全体の厚みを均一にして軽くしたり、テーブルに置いた時の安定性を左右する「高台(こうだい)」を削り出したりします。
この削りが、本当に面白いんですよ!そして、めちゃくちゃ奥が深い。削り方一つで、作品の印象はガラリと変わります。 シャープでモダンな印象にもできるし、丸っこくて温かみのある雰囲気にもできる。高台の形にこだわるだけで、「お、この人、わかってるな」感がぐっと増します。
私が特に意識してほしいのは、高台の内側まで、丁寧に削ること。 そして、高台の縁を「面取り」して、テーブルを傷つけないように滑らかにすること。こういう細部へのこだわりが、作品全体のクオリティを底上げし、「最低限のクオリティライン」で触れた「誠意」に繋がります。正直、最初はどこまで削ればいいかわからず、削りすぎて穴を開けてしまったことも一度や二度ではありません(泣)。でも、この痛い経験こそが、あなたを成長させてくれます。削りを制する者は、陶芸を制す。と言っても過言ではないかもしれません。
成形と削りが終わったら、いよいよ最終段階の「釉薬(ゆうやく)」です。素焼きした器に釉薬を掛けて本焼きすることで、ガラス質の膜ができて水が漏らなくなり、様々な色や質感を生み出すことができます。
陶芸教室に通っていると、あらかじめ用意された何種類かの釉薬から選んで使うことが多いですよね。それはそれで楽しいのですが、販売を考えるなら、もう一歩踏み込んでみましょう。「この釉薬は、どんな成分でできていて、どんな特徴があるのか?」という知識を深めるのです。
例えば、同じ「透明釉」でも、酸化焼成(窯の中に酸素が十分ある状態)で焼くか、還元焼成(酸素が不十分な状態)で焼くかで、仕上がりの色合いが微妙に変わってきます。鉄分を多く含む釉薬は還元で焼くと青みがかったり、銅を含む釉薬は綺麗な赤色(辰砂)になったり…。まるで化学の実験みたいで、知れば知るほど沼にハマります。
そして、最終的には「釉薬を自分で調合する」という領域に足を踏み入れることをお勧めします。最初は市販の調合済みのものを買ってきてもいいですし、慣れてきたら長石や灰などの原料を自分で混ぜ合わせて、オリジナルの釉薬作りに挑戦してみてください。他の誰も使っていない、あなただけの色の器が生まれた時の感動は、言葉にできません。
もちろん、失敗もたくさんします。「思った色と全然違う!」とか「釉薬が縮れて剥がれちゃった…」なんて日常茶飯事です。でも、その失敗データこそが、あなたの財産になります。「この作家さんの、この青色が好き」と思ってもらえたら、それはもう最強の武器。あなただけの「色」を見つける旅に出てみませんか?
さて、ここまで技術的なステップをお話ししてきましたが、実は悲しいお知らせがあります。それは、いくら良い作品が作れるようになっても、それだけでは売れない、ということです。え、嘘でしょ?って思いますよね。でも、本当なんです。作った作品を「誰かに届ける」ためには、技術とは全く別の、もう一つのスキルが必要不可欠になります。
今の時代、お客さんのほとんどは、スマホやPCの画面を通してあなたの作品に初めて出会います。ということは、写真が魅力的でなければ、作品のページをクリックしてもらうことすらできないんです。実物はこんなに素敵なのに、写真が暗かったり、ピントが合っていなかったりするだけで、その魅力は10分の1も伝わりません。これは、本当にもったいない!
プロのカメラマンに頼む必要はありません。今のスマホのカメラはめちゃくちゃ高性能です。大切なのは、いくつかのポイントを押さえること。
自然光で撮る: 室内灯の下ではなく、窓際の柔らかい自然光の下で撮るだけで、作品の色や質感が格段に綺麗に写ります。午前中の光がおすすめです。
背景をシンプルにする: 作品に集中してもらうために、背景は無地の壁や布など、ごちゃごちゃしていない場所を選びましょう。
いろんな角度から撮る: 正面からだけでなく、上から、斜めから、裏返して高台の部分、手に持った時のサイズ感がわかる写真など、最低でも5枚以上は用意しましょう。お客さんは実物を手に取れない分、写真でたくさんの情報を欲しがっています。
「なんかオシャレ」な写真を撮ろうと気負わなくて大丈夫です。それよりも、「この器の魅力はどこだろう?」「このツルツル感を伝えたいな」と考えながら、愛情を持ってシャッターを押すこと。写真撮影は、作品作りの延長線上にある、最後の仕上げ作業だと思って取り組んでみてください。写真を変えるだけで、驚くほど反応が変わりますよ。
素敵な写真で興味を持ってもらえたら、次はお客さんは作品の説明文を読みます。ここで「マグカップです。サイズは〇〇cmです。」というスペックだけの説明で終わっていたら、非常にもったいない。あなたの作品を買う人は、単なる「モノ」が欲しいわけではないんです。その作品の背景にある「物語(ストーリー)」や「作り手の想い」に心を動かされて、購入を決意します。
「どんな想いでこの形にしたんだろう?」
「なぜこの色を選んだんだろう?」
「この器で、どんな時間を過ごしてほしいんだろう?」
こういった、あなたの頭の中にある「コンセプト」を、自分の言葉で綴ってみましょう。例えば、「忙しい朝、このスープカップでほっと一息つく時間を作ってほしくて、手にしっくり馴染む丸い形にこだわりました」とか、「故郷の海の色を再現したくて、何十回も釉薬のテストを繰り返して、ようやくこの青色にたどり着きました」とか。
上手な文章じゃなくていいんです。格好つけなくてもいい。むしろ、不器用でも、自分の正直な気持ちを書いた文章の方が、人の心に響いたりします。あなたが作品に込めた愛情やこだわりを、少し照れくさいかもしれないけど、勇気を出して言葉にしてみてください。その文章が、あなたの作品を唯一無二の存在にしてくれます。
作品ができて、写真も撮って、説明文も書いた。さあ、ネットショップに並べました!…でも、誰も見に来てくれない。これは、砂漠の真ん中でお店を開いているようなものです。あなたのお店がここにあるよ!と知らせないと、誰も気づいてくれません。そのための最強のツールが、InstagramやX(旧Twitter)などのSNSです。
SNSのすごいところは、ただの宣伝ツールじゃない、という点です。あなたという作家の「人柄」を伝え、ファンと直接コミュニケーションをとり、関係性を育むことができるんです。
完成した作品の写真はもちろんですが、制作の裏側、例えば土を練っている様子や、素焼きで窯から出てきたばかりの姿、釉薬を掛ける前の状態などを見せるのもすごく効果的です。失敗談だって、隠さずオープンにしちゃいましょう。「また削りすぎて穴開けちゃったー(泣)」みたいな投稿は、すごく親近感が湧きますよね。
コメントやDMで質問が来たら、丁寧に返信する。あなたの作品を使ってくれている人の投稿をシェアして感謝を伝える。そうやって地道なコミュニケーションを重ねていくうちに、単なる「お客さん」が、あなたのことを応援してくれる温かい「ファン」に変わっていきます。この繋がりこそが、あなたが作品を作り続けていく上での、何よりの支えになるはずです。
さあ、作品もできたし、売るためのスキルもインプットした。じゃあ、具体的にどこで売ればいいの?という疑問が出てきますよね。販売方法にはいくつか種類があって、それぞれに良いところと、ちょっと大変なところがあります。自分の性格やライフスタイルに合った場所を選ぶのが、長続きさせるコツですよ。
おそらく、今一番多くの人が最初に挑戦するのが、この方法じゃないでしょうか。BASEやSTORES.jpのようなサービスを使えば、驚くほど簡単に自分だけのネットショップが開設できますし、minne(ミンネ)やCreema(クリーマ)といった国内最大級のハンドメイドマーケットに出品すれば、たくさんの人の目に触れる機会が得られます。
メリットは、なんといってもその手軽さと初期費用の安さ。 家にいながら、自分のペースで出品や発送ができます。陶芸教室に通いながら、週末だけ作業する、という人でも始めやすいのが最大の魅力です。私も最初はminneからでした。初めて「購入されました」の通知が来た時の、あの心臓が飛び出るような喜びは、今でも忘れられません。
デメリットは、ライバルがめちゃくちゃ多いこと。 数えきれないほどの作家さんの中から、あなたの作品を見つけてもらうためには、先ほどお話しした「写真」や「文章」、「SNSでの発信」といった努力が不可欠になります。ただ出品しただけでは、膨大な作品の海に埋もれてしまう可能性が高いです。また、梱包や発送を全部自分でやらなければいけないので、注文が増えてくると結構な手間になります。
全国各地で週末に開催されている、クラフトフェアや手作り市、マルシェに出店するのも人気の方法です。自分でテントを立てて、作品を並べて、対面で販売します。
最大のメリットは、お客さんの反応をダイレクトに感じられること。 「わー、可愛い!」「この手触りがいいですね」なんて声を直接聞けるのは、本当に嬉しいものです。自分の作品をどんな人が手に取ってくれるのか、どんな表情で見てくれるのかを知ることができるのは、次の作品作りの大きなモチベーションになります。ネットでは伝わりきらない、作品の質感や重さを直接感じてもらえるのも強みですね。
デメリットは、体力と準備がとにかく大変なこと! 大量の作品を車に積んで、朝早くから会場へ行って、テントを設営して…。一日中立ちっぱなしで接客して、終わったらまた撤収作業。天気にも左右されますし、出店料もかかります。そして、売れる日もあれば、全然売れない日もあって、売れ残った大量の作品と一緒にトボトボ家に帰る時の寂しさといったら…もう(笑)。でも、そのライブ感は、何物にも代えがたい魅力があります。
セレクトショップや雑貨屋さん、カフェなどに作品を置いてもらう「委託販売」や、自分の作品だけで個展を開く「ギャラリーでの展示」は、多くの作り手にとって一つの憧れではないでしょうか。
メリットは、お店のファンやギャラリーのお客さんなど、新しい層に作品を見てもらえるチャンスが広がること。 自分一人で発信するのには限界がありますが、お店の力であなたの作品を広めてもらうことができます。また、お店の雰囲気に合っていると認められた、という自信にも繋がりますよね。販売や接客をお店に任せられるので、自分は制作に集中できるというのも大きな利点です。
デメリットは、当然ながら誰でも置いてもらえるわけではない、ということ。 お店のコンセプトに合うか、クオリティは十分か、といった厳しい目で判断されます。まずは自分の作品ファイル(ポートフォリオ)を持って、お店に営業をかけるところからスタートです。断られることも日常茶飯事なので、心が折れない強さが必要。また、売れた場合、販売価格の30〜50%程度の手数料をお店に支払うのが一般的です。その分、自分で直接売るよりも手元に残る金額は少なくなります。
ここまで偉そうに語ってきましたが、もちろん私も最初からうまくいったわけではありません。むしろ、失敗と反省の連続でした。ここでは、私が実際に販売を始めてからぶち当たった、リアルな「壁」についてお話ししたいと思います。きっと、あなたも同じような壁にぶつかるはず。その時のための、心の準備になれば嬉しいです。
ハンドメイドマーケットに初めて出品した、歪んだマグカップ。値段はたしか1,800円くらいだったと思います。「こんな素人の作品、誰も買わないよな…」と半ば諦めつつ出品ボタンを押して、数日後のことでした。スマホに「作品が購入されました」という通知が。
え?嘘でしょ?って、何度も画面を見返しました。手が震えました。見ず知らずの誰かが、日本中のどこかで、私の作ったマグカップにお金を払ってくれた。その事実が信じられなくて、でも、嬉しくて嬉しくて、部屋で一人で小さくガッツポーズしたのを覚えています。この時の「自分の作ったもので、誰かを喜ばせることができた」という感覚は、私の陶芸人生の原点です。
でも、そんな嬉しい日ばかりではありません。初めて勇気を出して出店したクラフトフェアの日。周りの作家さんのお店にはどんどんお客さんが入っていくのに、私のブースの前だけ、人が素通りしていくんです。一日中頑張って笑顔で立っていたのに、売れたのは小さな豆皿が一つだけ。搬出作業をしながら、悔しくて情けなくて、涙がこぼれそうになりました。「やっぱり、私の作品なんてダメなんだ」と、本気で落ち込みました。売れる日もあれば、売れない日もある。そのジェットコースターのような感情の起伏に慣れるまでには、ずいぶん時間がかかりました。
販売する上で、誰もがぶつかる最大の壁。それが「値段の付け方」です。私も本当に悩みました。材料費や焼成代などの原価は計算できる。でも、そこに自分の技術料やデザイン料をいくら乗せればいいのか、全くわからなかったんです。
安すぎると、作れば作るほど赤字になってしまうし、自分の作品の価値を低く見ていることにもなる。でも、高く設定して「高すぎる!」と思われたらどうしよう…という恐怖。この葛藤は、本当に苦しいものです。「この値段で買ってくれる人なんているんだろうか?」という不安が、常に頭をよぎります。
私が一つアドバイスできるとしたら、「自分がこの値段で買いたいか?」ではなく、「自分がこの作品に、この値段の価値があると自信を持って言えるか?」で決める、ということです。そして、周りの同じような作品の価格をリサーチして、相場を知ることも大切です。最初は少し安めに設定して、自信がついてきたら少しずつ上げていく、というのも一つの手です。値付けは、あなた自身の作品への「覚悟」を問われる作業なのかもしれません。
ネットで販売していると、時には厳しいレビューやクレームをいただくこともあります。「写真と色が違う」「思ったより小さかった」など…。悪気のない感想だとしても、心を込めて作った作品を否定されたように感じて、グサリと胸に突き刺さります。私の場合は、心が豆腐メンタルなので、一晩中引きずって眠れないこともありました。
こういう時、どうすればいいか。まず、頂いた意見が「正当なご指摘」なのか、「単なる個人の感想」なのかを冷静に切り分けることです。「高台の処理が甘くてテーブルが傷ついた」というようなご指摘は、作り手として真摯に受け止め、謝罪し、改善しなければなりません。
でも、「思っていた色と違った」というような、個人の感覚に左右される感想については、「そう感じる方もいるんだな」と受け止めつつも、過度に落ち込む必要はありません。モニターによって色の見え方は違いますし、万人に100%満足してもらうのは不可能です。全ての批判を真正面から受け止めていると、心が持ちません。「私の作品を好きだと言ってくれる人もいる」という事実を思い出して、自分を守ってあげることも大切です。時にはSNSを少し見ないようにする、なんていう物理的な対策も有効ですよ。
ここまで、陶芸で販売できるようになるレベルについて、技術的なこと、考え方のこと、具体的な方法論まで、私の持てる知識と経験を総動員してお話ししてきました。
結論として、「販売できるレベル」に明確な線引きはありません。最低限の品質、つまり「安全に使える」というラインをクリアした上で、あなたの作品に「これがいい!」と言ってくれるファンが一人でも見つかれば、そこがあなたの「販売スタートライン」です。完璧なろくろ技術や、プロ並みの知識が最初から必要なわけでは決してありません。
技術を磨くこと、魅力的な写真を用意すること、想いを言葉にすること。これらは全て、あなたの作品を、それを待っている誰かの元へ届けるための「手段」です。でも、それらの手段よりももっと根源的で、もっと大切なことがあります。
それは、「あなた自身が、自分の作るものが好きで、作り続ける情熱を持っているか」そして「その作品を通して、誰かにどんな気持ちを届けたいか」という、熱い想いです。この想いこそが、作品に魂を宿らせ、人の心を動かす原動力になります。技術は後からいくらでもついてきます。でも、この「好き」という気持ちや「届けたい」という情熱は、誰にも真似できない、あなただけのものです。
「私の作品なんて…」と立ち止まってしまう気持ちは、痛いほどわかります。でも、あなたが今、その手で作っている器を、心待ちにしている人が日本のどこかに、世界のどこかに、必ずいます。その人に出会うために、まずは一歩、踏み出してみませんか?今日お話ししたことが、あなたのその一歩を、少しでも後押しできたなら、こんなに嬉しいことはありません。